Question今回は、「基礎コース」を受講した3名と、彼女たちの講習への参加を全面的にサポートしてくださったアラヤ株式会社中嶌重富さんにお集まりいただき、この講座についての感想や現在のお仕事に関して思うところなどを、ざっくばらんに語っていただきました。その様子をお届けいたします。

座談会参加者(座談会実施時期:2013年5月)

中嶌重富さん(アラヤ株式会社 代表取締役)
Aさん(アラヤ株式会社 プロジェクトマネージャー)
Bさん(アラヤ株式会社 プロジェクトマネージャー)
Cさん(アラヤ株式会社 営業担当)
新田直子(養成講座講師/有限会社Cafevoice 代表取締役)
横田千晶(養成講座講師/SDLジャパン株式会社 シニアプロジェクトマネージャー)


Questionまずは、講座を受講した率直な感想を教えてください。

Aさん:「プロジェクトマネージャー」という仕事について、今まで客観的な視点で考える機会が少なかったので、とても参考になりました。知識の習得という部分ももちろんですが、それ以上に、思考能力を高めるという点において、いくつか重要なポイントを学ぶことができたと思います。

Bさん:私自身、普段プロジェクトマネージャーとして働いており、講座の内容も実際の業務に近いものだったのですが、経験値の高い講師の方々の話を直接伺うことによって、今まで自分の中で試行錯誤を重ねながら行ってきたことの裏付けができたような気がしました。4日間の講義内容全てが、実務と何かしらリンクするものだったということも、ありがたかったです。

Cさん:私は営業担当として参加させていただきました。私たちの受けた講座では、たまたま私ともう1名しか営業経験者がいなかったので、ディスカッションの中では、自分が業界の営業担当者代表のような役割になることもしばしばありましたが(笑)。プロジェクトマネージャーと営業の双方が共通認識を持つことによって、依頼→受注→納品という一連のフローがもっとスムーズに流れるようになるのではないか。そういう気づきを得られた4日間でした。

Question講座の内容や雰囲気はどのような感じだったのでしょうか。

Cさん:8~9名の比較的少人数制のクラスだったこともあり、落ち着いて受講することができました。一方的に話を聞くと言うよりも「これはどう思いますか」というような問いかけが多くあったので、自分がそれを受けて話をするという経験も新鮮でしたし、逆にまわりの方々の意見を聞いて、「そういう風に思っていたんだ」と改めて感じることも多かったです。

Bさん:いい意味で、緊張感がなかったかもしれません(笑)。講座のカリキュラムが、かなり具体的で実践的な内容になっていたので、大人しく座って話を聞くというよりも、その場で気がついたことや疑問点などがあれば、皆それぞれ自然に声が出てしまっていたというか。そういう何でも言い合える環境で学べたのはよかったと思います。

Question今回の養成講座を受講後、仕事の現場で新たな発見はありましたか?

Question

Aさん:講座中「顧客満足」ということについて、非常に具体的に噛み砕いて説明してくださったので、仕事の現場でも、最初に洗い出すべきことは何かということを、案件のスタート時に意識して考えられるようになりました。今はお客様のご要望も多種多様で、低コストでのご依頼だったり、短納期だったりと、なかなか厳しい状況もあるのですが、そういった場合のコミュニケーションの取り方について教わったことを実践していくうちに、仕事への取り組み方そのものが変わってきたような気がします。また、最初に先回りして色々と考えると、途中で滞ったり、トラブルになったりすることが回避できるようにもなるので、仕事の幅を広げることにも役立っているのかな、と思います。

Cさん:品質を求めているお客様に納期を早くあげても意味がないように、顧客満足度とはニーズを理解しないと上げることができないものだというのを、今さらながらに学ぶことができました。実際のお客様に対しても、どの程度のものを求めているのかをより具体的にヒヤリングし、なるべく細かな情報を編集担当者に渡せるようになったということは、自分の中では大きな変化のひとつだと思っています。

Bさん:Cさんとは仕事で一緒になる機会が多いのですが、最近では以前よりもメール等で確認する回数が増えたような気がします。全てきれいでパーフェクトな形ではないかもしれないけれど、少し踏み込んでよりよい方法を一緒に考える。お互いがそういう関係になってきたのかな、という風に感じています。

Questionそもそも、皆さんがこの講座を受講したきっかけは何だったのでしょうか。

中嶌さん:もともと私たちの仕事の仕方は、プロジェクトマネージャー型ではありませんでした。ただし今後を見据えるのであれば「依頼があったものを受ける」だけではなく、プロジェクトマネージャー型にシフトしていかなければならないのではないか。そういう問題意識がスタッフの間からも出てきたところに、この講座の話を伺い、ものすごいタイミングだな、と(笑)。

新田:計ったわけではないんです(笑)。私たちもたまたまこのタイミングで、やってみようと思っただけで。

Aさん:これからの時代は、さらに多種多様な案件が増えていくでしょうし、私たち一人一人にもプロジェクトマネージメント能力がより一層求められてくるのだと思います。スタッフの育成にも積極的に取り組みたいと思いつつ、頭ではわかっているつもりでも、実際に人に説明するのは難しい。経験値の高い方々に、第三者的な立場で語ってもらう意義というのは、非常に大きかったと思います。

中嶌さん:お客様と接触するところから納品するまでは、完全にシームレスというか、本来「段差」というものがないはずなのです。でも現実では、営業がとってきた仕事を編集が受けることになり、それぞれ意識も違うし、やれることも違うので、どうしてもそこに段差が発生してしまう。編集側に「営業側が無理難題を持ってきた」という被害者的意識が芽生えてしまうこともしばしばあります。ただし、お客様からみれば1つの会社に発注しているのだから、営業も編集も変わらず、同じものなのです。受けとる方にその意識がないまま進めていると、お客様との意識がどんどんずれていってしまうという、悲しい状況になってしまいます。

Cさん:だからこそ、フロントに立ってマネージメントをする人というのは、とても重要なのですね。

中嶌さん:そうなのです。お客様の中で、やりたいことや作りたいものがはっきりしている場合はわかりやすいのですが、「何か改善したいのだけど…」といった曖昧なご相談をいただくこともあります。昔自分が営業だったころは「面白そうだからやってみます」と言えたのですが、今は「うちの会社でできることはこれとこれ」と受け手側でジャッジせざるを得ないこともあるのかなと。でも、できることだけをやっていると、新しい仕事は入ってこないのです。営業とプロジェクトマネージャーの役割分担はもちろんあるのですが、恐らく今後は、その業務の境が限りなく曖昧になっていくことでしょう。何故なら、いいプロジェクトマネージャーというのは、ものすごくいい営業でもあるはずだから。

一同:(声をそろえて)それはそうですね。確実にそうだと思います!

Question業界自体の変化というものもあるのでしょうか?

Question

横田:20年前だと媒体自体も限られていましたし、マルチランゲージの場合は原稿をまずは英語に訳し、それを各国語にする、というような基本の流れがありました。それが現在では、同時進行は当たり前、どんどんファイルのフォーマットも変化していくので、単純にベルトコンベアー式に仕事を流していくだけでは終わらなくなってきました。低コスト、短納期が求められる中、これらの難しい課題をどうクリアしていくのか。管理能力が問われてきていますし、終始「考える」ということも重要です。ただ、その考える部分にこそ、各社の差別化につながるヒントがあるのではないかとも感じています。

新田:翻訳業界はもともと語学が中心だったのが、今はITが入り込んでいて、エンジニア系の仕事が増えているという状況もあります。案件も昔ながらの方法のものから最新技術を伴うものまで様々ですし、お客様に対して本当にいい方法は何なのかという正解も、決してひとつではない。これからのプロジェクトマネージャーに必要とされる能力とは、お客様の「これやりたい」についていくことだけでもなく、「できません」と言うことでもなく、それを超えた「強さ」を身につけることではないのだろうかと。お客様の今と数年後の未来のために、自分たちが何を考えられるか。そういうことが求められているような気がします。

中嶌さん:お客様側からすれば、しっかりしたプロジェクトマネージャーの能力を持った人に担当してもらいたいはず。我々みたいな会社にとって、そういう人材を育てていくことは重要なことです。もちろん本人の努力も必要ですが、できるだけいろいろな経験をしてもらって、引き出しを膨らませていってもらいたい。そういう成長をしていかないと、日常のことばかり対応しているだけでは、どんどん疲弊していってしまいますから。

新田:私も20年この仕事をやっていますが、担当の窓口の方がどんどん辞められていくのです。一方で企業からは、いい人材はいないかという問い合わせを常にいただく。何故辞めていくのか。理由はおそらく2つあって、1つは、自分はベルトコンベアー式に右から左へ仕事を流しているだけで、ここにいても知識もスキルも吸収することができないという焦燥感にかられてしまうということ。もう1つは、お客様の無理難題にNOと言えず、言われるままやっているうちに、身も心も本当にボロボロになり、続けていけなくなるというパターン。これらを打開するためには、やはりお客様にものを言える自信を持つための知識と経験が必要なのではないか。そしていよいよ困った時に、誰に聞いたら助けてもらえるのか。そういった横のネットワークや協力関係が、孤独で、いつも一人だけ疲れていて「もう無理」となる環境を救えるのではないかと思っています。

横田:そのためにも、自分たちが今までに教わったこと、得た経験を、これからの世代に受け継いでいく。それが実は、今回の養成講座の成り立ちでもあります。

Question今回の講座を受講してみて、あえてリクエストをしたいことがあれば教えてください。

Aさん:今回は「基礎コース」だったこともあり、他社から参加されていた方も初心者の方が多かったようです。欲を言えば、もう少し中堅クラスの方が参加されていたら、もっと色々な意見を伺えたのかなと思いました。「プロジェクトマネージャー」というものに対し、他社ではどのように推進しているのかというのは、気になるところです。

Bさん:1コマに対して1つのテーマという形式だったので、自分が得意な分野は評価していただけてよかったのですが、苦手分野のところでは新しい情報が多すぎて若干消化不良気味だったのと、プラス、もう少し詳しく知りたかったです。1時間では足りなかったと感じたカリキュラムもありました。

Cさん:セミナーのタイトルが「プロジェクトマネージャー養成講座」なので、やはり編集の方が多かったですね。普段なかなか、他の翻訳会社の営業の人と出会うチャンスがないので、できれば同職種の人ともっと出会ってみたかったです。

Question最後に、この4日間の講座に参加して(参加してもらって)得たものとは何ですか?

Aさん:知識と言うよりも、思考力を強化してもらうような進め方がすごいと思いました。自分の中で、プロジェクトマネージャーとしての考え方が強化されたような気がしています。今までも色々思考していた気がするのですが、それはあくまで点であって、線に結び付いていなかった。それが今回、形になったという実感がありました。

Cさん:講座全体を通して新しい発見もありましたが、どちらかと言うと、スケジュールの立て方や、スムーズに物事を進める方法など、当たり前のことを意識しながら丁寧に仕事をすることの大切さに、改めて気がついたような気がします。このひと手間を惜しまずお客様にヒヤリングすると、編集側の負担も減るし、お互いが気持よく仕事ができるようになるんだな、と。他の方にも、ぜひ営業と編集とセットで参加していただきたいです。

Bさん:外のセミナーへの参加という、いつもと違う姿勢で臨めたのがよかったです。これまでも講師の方に社内に来てもらって行う形式のセミナーをいくつか受けて、その時も大変勉強になったのですが、日常業務の一環に位置づけられるとどうしても、与えられるものだとどこかで思ってしまいがちです。今回は休みの日を使って自分から能動的に参加をし、自ら知りたい情報をつかみに行った形だったので、知識的にも経験的にも、仕事以上のいい刺激になりました。

中嶌さん:参加したメンバーとっては、実は前提がガラリと変わってしまうくらいのインパクトがあったのではないでしょうか。一番大きいのは、新田さん横田さんの経験を、講義という形でオープンにしてくれたということ。普通に個人的に話していても、なかなか聞ける内容ではないはずなので、若い人たちは影響を受けたことでしょう。共に過ごした時間は、とても大切な時間になっただろうし、本人は気がつかないまま、意識転換をした可能性があるのではないかと思っています。ただしこういう講座は、経営者がちゃんと理解をしないと、個人で参加するのはなかなか難しいかもしれませんね。自分の時間を割くだけではなく、何故そこに参加するのかという意義を見つけなければいけませんから。でも、行った人にとっては、行く前に考えていたもの以上というか、「予想外」の経験ができたのではないかと思っています。